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北朝鮮・シリアを巡るトランプ劇場

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公開日付:2017.05.15

 

北朝鮮の核開発の進展で、北朝鮮の脅威が現実化

 北朝鮮情勢が一気に緊迫化してきた。本号の執筆は4月21日だが、4月下旬が「Ⅹデー」との情報もある。ここにきて緊張の度合いが高まっているのには、幾つかの背景がある。
 第1に、北朝鮮の核開発の進展により、北朝鮮の脅威が深刻化し、現実化してきたということである。北朝鮮は、かねて核戦力の強化に努めてきたが、米国にとって、北朝鮮の核の脅威が現実化するには、潜水艦からのミサイル発射技術、米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM )の開発、ミサイルに搭載するための核の小型化、などが必要になる。
 まず、潜水艦からのミサイル発射については、北朝鮮は2016年4月と7月に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられるミサイルを発射した。しかし、4月は飛距離が30キロメートル、7月は発射から数キロメートル飛んだ後で空中爆発している。北朝鮮が初めてSLBMの発射に成功したのは2016年8月24日である。SLBMの最低射程は300キロメートルとされるが、このミサイルは高角度での発射にもかかわらず約500キロメートル飛行したとされる。
 潜水艦は海中を自由に移動できるため、衛星などで発射地点を特定しにくい。SLBMに核弾頭を積めば核兵器になり、他国にとっては大きな軍事的脅威となるが、北朝鮮は既に2015年5月20日、核弾頭の小型化に成功したと発表している。
 大陸間弾道ミサイル(ICBM )の開発も着々と進展し、性能の向上が進んでいるようだ。3月18日には、弾道ミサイルに搭載できると見られる新型の高出力エンジンの地上燃焼実験に成功した。4月15日の故金日成主席の生誕105年記念日の軍事パレードでは、新型未完成と見られるICBMを始めて公開した。まだ米国本土には届かないと見られているものの、北朝鮮の核の脅威が進行していることには疑いの余地がない。
 核兵器の運搬能力・移動能力の向上だけでなく、核兵器本体の強化にも注力している。北朝鮮は2016年1月6日、初めての水爆実験に成功したと発表している。

トランプ大統領の登場で、前オバマ政権の戦略的忍耐政策から転換

 北朝鮮情勢が一気に緊迫化し、緊張の度合いが高まっている第2の背景は、米国で軍事力増強を唱えるトランプ大統領が誕生したからである。トランプ大統領は、国防長官にアメリカ中央軍司令官などを歴任したジェームズ・マティス元海兵隊大将を任命するなど、政権幹部に軍関係者を多数登用している。
 大統領選挙期間中から「米国第一主義」を強調してきたトランプ大統領は、「米国第一主義」による国益最優先により、米国が世界の諸問題の解決にリーダーシップをとらなくなる可能性があるとの見方があった。しかし、4月に入り、その見方は覆された。
 トランプ米大統領は4月2日の英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、「もし中国が北朝鮮問題を解決しなければ、我々がする」と述べ、米国単独行動も辞さない考えを示した。さらに4月6日、米軍は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、シリアの空軍基地に対して59発のミサイルによる攻撃を行い、軍事行動をとるのに躊躇しないことを示した。
 実は、こうした兆候は3月中旬に既に表れていた。3月15~19日にかけて、ティラーソン米国務長官が日中韓3カ国を訪問したが、歴訪中、対北朝鮮政策で軍事行動を含む選択肢を検討していると述べていたからである。
 つまり、米国は3月中旬までに、着々と核戦力を強化する北朝鮮を放置してきた前オバマ政権の戦略的忍耐政策からの転換を図っていたということになろう。

相次いだ重要イベントに絡む双方の対抗措置と発言で朝鮮半島有事の緊張が高まる

 北朝鮮情勢が一気に緊迫化した第3の背景は、北朝鮮に絡む重要イベントが3~4月に相次いだということである。まず3月1日に、米韓両軍が朝鮮半島有事を想定した定例の合同演習を韓国・周辺海域で開始した。3月7日には、在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THHAD)の韓国配備が始まった。4月6日からは2日間の日程で、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席の初めての会談が始まった。4月15日は、北朝鮮の故金日成主席の生誕105年記念日だった。
 こうした重要イベントに呼応するように、北朝鮮が対抗措置をとっている。3月1日からの米韓合同演習と3月7日のTHHAD配備に対抗して、北朝鮮は3月6日にミサイルを発射した。3月15~19日にティラーソン米国務長官が日中韓3カ国を歴訪中に、対北朝鮮政策で軍事行動を含む選択肢を検討していると述べたことに対抗して、北朝鮮は弾道ミサイルに搭載できると見られる新型高出力エンジンの地上燃焼実験を3月18日に行い、3月22日にミサイルを発射した。単独行動も辞さないとする4月2日のトランプ大統領発言に対抗し、また4月6~7日の米中首脳会談を牽制するため、北朝鮮は5日にミサイルを発射した。
 こうした北朝鮮の強気の姿勢に対抗し、4月8日、米海軍はシンガポールを出港した米原子力空母カール・ビンソンを、当初予定を変えて朝鮮半島への派遣を決めた。4月15日の故金日成主席の生誕105年記念日を控えた4月13日には、米軍が核兵器を除く通常兵器の中で最大級の破壊力を持つ大規模爆風爆弾をアフガニスタンに投下した。4月15日の故金日成主席の生誕105年記念日に軍事パレードだけだった北朝鮮は、翌日にミサイル1発を発射した。
 重要イベントに絡んで、米国と北朝鮮がお互いにパンチを繰り出していることになる。

米国のシリア攻撃の多くのメリット

 4月6日の米軍のシリア攻撃は、まさに唐突だった。シリアのアサド政権が4月4日に行った空爆に対し、化学兵器が使われた疑いが濃いとして、トランプ大統領は「オバマ政権が何もしなかった結果だ」とし、5日に「アサド政権は幾つものレッドラインを越えた」と述べた。ヘイリー米国連大使は「米国が行動を起こすしかない」と述べていた。ただ、アサド政権が化学兵器を使用したことについての真実は定かではない。
 そうした中でのシリア攻撃だったが、攻撃のタイミングは絶妙だった。4月6日から2日間の日程で、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席との初めての米中首脳会談が行われたが、この米軍のシリア攻撃は米中首脳の夕食会の最中だった。それも夕食会が終わろうとする午後8時40分に巡航ミサイルが発射された。トランプ大統領は、夕食会の直前にシリア攻撃を決断したと報道されている。そうした決断を隠し、夕食会では和やかな顔で習近平国家主席をもてなしていたに違いない。米軍の攻撃後、トラップ大統領から習近平国家主席への説明がなされたというが、明らかに計算されたタイミングである。
 この米国のシリア攻撃には、米国にとって多くのメリットがある。第1に、中国に対する圧力である。北朝鮮の核・ミサイル問題に対し、北朝鮮への石油輸出停止など中国に本腰を入れて協力を促す狙いである。第2に、核戦力の強化を続ける北朝鮮への牽制である。
 第3に、米国内の支持率の向上・政権基盤の強化である。トランプ大統領が就任早々に署名した「移民の入国制限令」や「医療保険制度改革法(オバマケア)見直し」に関する大統領令が、司法や議会の抵抗により相次ぎ頓挫し、支持率が低下していたからである。第4に、自身が定めたレッドラインを超えても攻撃を見送ったオバマ大統領との違いを明確化できる。第5に、疑いだけでも、米国が設定したレッドライン、もしくは米国がレッドラインを超えたと判断すれば軍事行動をいとわないことを示したことである。

政治の世界では何事も偶然には起こらない

 第6に、シリアの空軍基地を攻撃することによって、イスラム教過激派組織イスラム国(IS)と敵対するアサド政権を叩くことができる。実は、米国は裏でISを支援しているとの情報が根強くある。4月13日に、米軍が大規模爆風爆弾をアフガニスタンに投下したのは、ISが使用するトンネル施設の破壊が目的とされているが、このアフガニスタン攻撃は北朝鮮への牽制とともに、米国はIS打倒にも注力していることを示す意図があったと考えられる。
 第7に、米国がロシアとの協力関係にあることを示すことができる。ミサイルによる限定的な米軍のシリア攻撃は、事前にロシアに説明があったとロシアの報道官が明かしている。米軍のシリア攻撃後、ロシアのプーチン大統領は「主権国家に対する侵略行為であり、国際法に違反している」と非難しているが、ロシアには2014年のクリミア侵攻の弱みがある。ロシアのラズロフ外相は「米ロ関係に悪影響を与えないことを期待する」と発言している。
 一方、化学兵器を使用したとされるシリアには、このタイミングで使う何のメリットもない。シリアのムアレム外相は「シリア軍は化学兵器を使用していない」と強調している。
 実は2013年9月のアサド政権の化学兵器使用疑惑も、同じような状況だった。シリアとロシアは化学兵器使用を否定し、それどころか「採取されたサンプルは反政府ゲリラ側が使用したことを示している」としていた。そのため、当初、「アサド政権による化学兵器使用の責任を取らせる」と表明していたオバマ前大統領は、軍事介入を断念したのである。
 さらに、4月4日の空爆により化学兵器で苦しむ幼児の姿は、1990年のイラクのクウェート侵攻時に、「イラク軍が保育器の中の新生児を取り出し放置し、死に至らしめた」とするナイラ証言(後に虚偽と判明)を想起させる。
 米中首脳会談の最中の4月6日の米軍のシリア攻撃、この米軍の攻撃を引き起こした4月4日の化学兵器を使用したとされるアサド政権の空爆は、果たして偶然の賜物だろうか。第二次世界大戦時、米国の大統領だったルーズベルト大統領は、「政治の世界では何事も偶然に起こるということはない。もし、何かが起こったならば、それは前もって、そうなるように謀られていたと賭けてもよい」と語っている。

 北朝鮮情勢の緊迫化はトランプ大統領のディールと判断するが、4月下旬がXデーとの見方も

 朝鮮半島有事が起こるXデーとして、外務省で北朝鮮班長を務めた原田武夫氏は4月19日とし、『週刊現代』編集次長の近藤大介氏は4月25日前後が危ないとした。4月25日の朝鮮人民軍創軍85周年の前後に核実験を行うよう、金正恩委員長の指示が出ているからだという。4月24~28日にかけて、ロシアと欧州系メディアを中心とした記者団約200人が北朝鮮から招待されているため、Xデーは4月29日以降との見方もある。
 トランプ米大統領は「俺はディール(取引)が好きだ」と度々公言している。私は、いま北朝鮮情勢が緊迫化しているのも、中国・北朝鮮に対するトランプ大統領のビジネスマンとしてのディール(取引)だと考えている。北朝鮮も、それに対応し、双方がチキンレースを行っていると思う。
 北朝鮮の故金日成主席の生誕105年記念日の4月15日の前日の14日、複数の米メディアが、トランプ米政権が対北朝鮮政策で金正恩(キム・ジョンウン)委員長の体制転換は求めない方針を固めたと伝えたことは、1つの証拠ではないか。これに呼応して、北朝鮮も4月15日に噂されていた核実験を見送ったということもできる。翌日のミサイル発射も、意図的に発射直後に失敗させたという見方もある。
 スパイサー米大統領報道官が4月17日の記者会見で「トランプ大統領が目に見える形でレッドラインを引くことはないだろう」と語り、軍事行動などに踏み切る具体的な基準は示さなかったことも、北朝鮮に対するサインだろう。北朝鮮が4月下旬に核実験に踏み切っても、米国はそれだけでは行動を起こさないとの意味ではないか。米原子力空母カール・ビンソンの船足も遅い。しかも、直接、朝鮮半島に向かわず、豪州方面に遠回りした後、4月末に朝鮮半島に到達する見通しだ。朝鮮半島有事を想定しているとは、とても思えない。
 トランプ大統領のディール・チキンレースの主目的は、はなから中国だと思う。米中首脳会談でトランプ米大統領は、「中国が協力しないなら、単独行動する用意がある」と述べ、中国に北朝鮮の核問題の解決に向けた対応を迫ったという。米中首脳は、北朝鮮の核計画が深刻な段階に入ったとの認識を共有し、北朝鮮の核計画の放棄に向けて協力を強化することで一致した。また、米国の対中貿易赤字の是正に向けた「100日計画」を策定することで合意した。つまり、北朝鮮に対する中国の対処に米国が不満であれば、対中貿易赤字の是正問題に向けた「100日計画」で中国に厳しく接するという意図だと思う。トランプ大統領のディールだとすると、少なくとも5月9日の韓国大統領選までは、さらには「100日計画」策定までは北朝鮮情勢の緊張状態が続くのではないだろうか。
 懸念されるのは、ここにきての北朝鮮・シリア問題を巡っては、米国、中国、ロシアと主要大国の利害が錯綜しているうえ、米国、中国での熾烈な権力争いが絡んでいることだ。したがって、北朝鮮情勢が極めて読み難く、かつ流動的になっている。米国の権力争いで勢いづいてきた軍産複合体・ネオコンと、中国軍・北朝鮮軍の一部の暴発が懸念される。

(4月21日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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