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トランプ大統領が守ろうとする世界

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公開日付:2017.04.14

 

Make America Great Again (偉大な米国の復活)

 トランプ米大統領が就任して2カ月になる。世界はまだ「トランプ劇場」に翻弄されているというところだろうか。先月の2月22日の時局レポートで「トランプ米大統領が構築する世界」と題して、トランプ大統領の役割は「破壊と創造」であり、トランプ大統領が今後構築する新しい世界の中で、世界的な影響が最も大きいと考えられるのは「米中冷戦の構築」だろうと述べた。
 破壊と創造を行うからには、トランプ大統領が守ろうとする世界があるはずである。このトランプ大統領が創ろうとする世界は「偉大な強いアメリカに付き従う世界」であり、守ろうとする世界は、かつての「偉大な強いアメリカ」に間違いあるまい。このことは、大統領選挙期間中からの公約である「Make America Great Again(偉大な米国の復活)」に明確に示されている。
 偉大な米国の復活を目指すトランプ大統領にとって、オバマ大統領のアメリカは、例えばラストベルト(錆びついた工業地帯)に代表される製造業が衰退したアメリカ、重税を課せられ白人中産階級が崩壊したアメリカであり、到底、容認できないアメリカであっただろう。とりわけ、オバマ大統領の下での軍事的に弱腰のアメリカは、世界一の軍事力を持ちながら、その力が発揮できず、効果が期待できない酷いアメリカであったに違いない。
 トランプ大統領には、「オバマ大統領のアメリカが続けば、アメリカは偉大な強い国から転落してしまう。このままでは覇権国の座が中国に移動してしまう」との思いがあるだろう。

日米関係が始まった69年前から続く米中の親しい関係

 実際、2013年6月の米中首脳会談で、習近平国家主席は、米中関係について「大国同士の新たな関係のモデルを作るべきだ」と何度も繰り返したと報道されている。さらに、習近平国家主席は「中華民族の偉大な復興」という夢を語り、「広い太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」と強調したという。これだけでなく、2013年11月、スーザン・ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、米中両国の「新たな大国関係」構築への意欲を明らかにした。意味するところは米中2大国で世界を仕切る「米中2極体制」、つまり「G2」論である。
 幸い、これ以上の進展はなかったが、もともと米中は歴史的に親しい関係にある。ジャーナリストの松尾文夫氏が著書『アメリカと中国』(2017年1月刊)で書いたように、1776年のアメリカ独立宣言から間もない1784年、アメリカの商船「中国皇后号」が中国に辿り着き、ここから米中2大国の関係が始まっている。1853年の黒船襲来のペリー艦隊から始まる日米関係よりも、69年も古くから米中関係が始まっているのである。以後、英国を交えたアヘンを巡る米英中の貿易など、米中は実利を求めるビジネス関係にある。
 米ソ冷戦下でも、表面上、共産主義の中国とは対立しながら、水面下で米中は結びついていた。このことは、親中の大物である米国防総省顧問マイケル・ピルズベリー氏の著書『China 2049』(2015年9月刊)でも明らかだが、実は筆者は、このことを、実際に中国を見て体験した方から聞いて知っていた。その方は、中国要人から招待され、中国の要所を案内された。奥深い山をくり抜いた軍事拠点には、当時、米国が輸出禁止に指定していたIBMのコンピュータがずらりと並んでいたそうである。筆者がまだ20代の時、誰も知らないような中国での体験談を聞いて、「世界の裏はこうなっているのか。メディアが報道したり、表面上、見えているのはごく一部であって、見えない世界の方が大きいのだな。海に浮かぶ氷山のようだ」と思ったものだ。

米国から中国への覇権移動の阻止

 こうした米国の中国支援は、米ソ冷戦下の敵であるソビエト連邦(ソ連)を見据えたものだろう。ソ連に勝つために、中国の軍事力向上に手を貸したということである。しかし、いまや中国は、世界第2位の経済大国・軍事大国にのし上がった。
 トランプ大統領は、著書『タフな米国を取り戻せ』(2017年1月刊)で「中国は米国の敵である。彼らを敵として扱う時だ」と断言している。新興の大国・中国の挑戦をこれ以上許せば、世界一の経済大国・軍事大国である米国の地位が危うくなってくる。米国から中国への覇権移動は何としても阻止しなければならない ― 「強いアメリカ」を掲げ、米ソ冷戦に勝利したレーガン大統領と同じように、「偉大な米国の復活」を掲げるトランプ大統領にとって、この思いは当然の思いだろう。
 第2次世界大戦後、米国は日本の復興に大いに貢献したが、日本が経済大国になり、世界一の米国の座に近づいたとき、米国は日本を敵視した。日米経済戦争である。今の米国と中国の関係は、これと同じような構図と言える。
 日本はバブル崩壊により叩き潰されたが、中国には日本にない核兵器がある。軍事力もある。国土も人口も、米国に比べ格段に大きい。中国はソ連が崩壊したのも、日本のバブル崩壊も目にし、大いに学び、教訓を得ているはずだ。しかも、中国はしたたかである。米国から中国への覇権移動を阻止するための米中冷戦も、米ソ冷戦同様、数十年続く可能性がある。

アメリカの最高権力者デービッド・ロックフェラー氏が3月20日に死去

 米中冷戦の方向に進んだとしても、親中派の力は大きい。紆余曲折や様々な妨害・巻き返しがあるだろう。トランプ政権にしても、米中冷戦を構築する前に、北朝鮮と中東情勢に対処しなければならないという事情もある。さらに、米中は互いに経済大国であり、相互に依存している。冷戦とはいえ、表面上、穏やかな対立姿勢というところだろうか。
 そうしたところに3月20日、アメリカのキングメーカーであり、アメリカの政策を大きく左右するアメリカの最高権力者デービッド・ロックフェラー氏(米富豪ロックフェラー家3代目当主)が死去した。101歳だった。
 トランプ大統領が実現したのには、デービッド・ロックフェラー氏が当初のヒラリー・クリントン支持からトランプ支持に鞍替えしたことが大きくかかわっている。デービッド・ロックフェラー氏の死去により、クリントン派が勢いを取り戻し、親中派も勢いづく可能性がある。トランプ政権の政策も、あらゆる政策が紆余曲折する可能性が出てきた。いずれにせよ、ロックフェラー家4代目の当主争いと絡み、目が離せないところだ。

米国企業の中国からの撤退が相次ぐ

 中国の人件費高騰もあって、ここ数年、米国企業の中国からの撤退が相次いでいる。2014年1月、中国事業の一部を売却したジェネリック医薬品メーカーの米アクタビスのポール・ビサロ最高経営責任者(CEO)は、中国は「リスキーすぎる」「ビジネスに優しい環境ではない」と、中国事業の本質をまざまざと語っている。
 米中冷戦の予兆を察知したのか、今年1月9日、米マクドナルドは中国・香港に2400店舗を展開し、12万人以上の従業員を抱える中国事業を、中国の国有企業である中国中信集団(CITIC)などに20.8億ドル(約2400億円)で売却した。CITICなどが設立する新会社は中国・香港にある店舗を20年間運営する権利を取得した。ケンタッキー・フライド・チキンを展開する米ヤム・ブランズも、昨年10月に中国事業を分離した。
 両社は2014年7月、青く変色した賞味期限切れの鶏肉を使用していたことが発覚し、業績が悪化していた。業績不振が中国事業の売却・分離の主因だろうが、忍び寄る米中冷戦の予兆も両社の姿勢を後押ししたのかもしれない。米マクドナルドは、米中冷戦が20年続くと見ていると思うのは深読みすぎるだろうか。

 物議をかもす移民制限に、米国民の多くが支持

 米国から中国への覇権移動の阻止と並んで、トランプ大統領がこだわっているのは移民の制限である。大統領就任後の1月27日、トランプ大統領は、難民や「イスラム圏のテロ懸念7カ国」の市民の入国を制限する大統領令に署名した。トランプ大統領は、「イスラム教徒の入国禁止ではない。国の安全を保つためだ」との声明を出したが、世界的な混乱や波紋が広がったことは周知のとおりである。
 大統領令とは、連邦政府や軍に対して、米大統領が出す行政命令やその権限を指す。迅速な決定を可能にするため、議会の承認がなくても即座に法的拘束力を持つ。常に臨戦態勢にある米国は、大統領に幅広い特権を与えていると言える。ただ、予算措置や法改正が必要なものの見直しや撤廃は大統領令だけではできない。また、議会が命令発効を禁じる法律を制定したり、連邦最高裁判所が違憲判断を下したりすれば、大統領令は効力を失う。
 1月27日の、難民や「テロ懸念国」の市民の入国を制限する大統領令に対しては、外国からだけでなく、米国内でも異論が相次いだ。2月3日には、ワシントン州の連邦地裁が大統領令を一時差し止める命令を出した。これに対し、トランプ大統領は3月6日、入国制限対象からイラクを外した新たな大統領令に署名したが、ハワイ州の連邦地裁が新大統領令を一時差し止める命令を出すなど、争いは長期化している。トランプ政権は徹底抗戦する構えで、争いは連邦最高裁までもつれる可能性が高い。
 ただし、米国民の反対が多いわけではない。1月30日から行われたロイターイプソスの世論調査によれば、入国を制限する大統領令について「強く支持する」と「ある程度支持する」との回答が計49%になった。「反対」は41%だった。

 白人中心のアメリカが失われる危機感 → 米国の国体護持に注力

 トランプ大統領が移民規制にこだわるのは、米国の国体を護持しようとしているからだろう。トランプ大統領にとって、米国の国体とは「白人を中心とした旧き良きアメリカ、偉大な強いアメリカ」だろう。大統領選挙期間中での人種差別発言や移民に対する暴言などを見れば、明らかである。こうしたトランプ大統領の言動に対し、トランプ大統領は人種差別主義者だとする白人は見当たらない。白人の本音をトランプ大統領が代弁しているからだ。
 米国は移民により建国され、多くの移民により活力あふれる国家になった。そのアメリカの中心は白人であった。しかし、近い将来、アメリカは白人が少数派になりそうな状況なのである。国勢調査によれば、米国の非白人人口は2004年の32.4%から2014年には37.9%に増加している。既に、ハワイ、カリフォルニア、ニューメキシコ、テキサスの4州では非白人が多数派になった。2040年代半ばに全米で非白人が初めて多数派になるとの予測もある。トランプ大統領にすれば、差し迫った危機であり、到底許せない事態だろう。
 文明論などで世界的に著名なサミュエル・ハンチントン氏は、著書『分断されるアメリカ』(2004年5月刊)で、ヒスパニックの台頭により、「アメリカは二つの言語と二つの文化という二分化に陥ってしまうのではないか」との懸念を表明しているが、「多言語・多文化のアメリカ」になる可能性もあるかもしれない。

 製造業の復活 … 米国人は自動車産業に強いこだわりを持つ

 米国の国体を護持するため、移民を制限するとともに、トランプ大統領が注力しているのが、白人中産階級の復活である。このため、中間所得層への大幅減税を目指している。2月28日(日本時間3月1日)のトランプ大統領の議会演説でも、「今、歴史的な税制改革に取り組んでいる。法人税を下げ、中間所得層向けに大規模な減税を実施する」と述べた。
 白人中産階級の復活やラストベルトの立て直し、さらには雇用創出のために、製造業の復活、工場誘致に積極的に取り組んでいる。トランプ大統領が目指すアメリカの国体、つまり「白人を中心とした旧き良きアメリカ」を守るために、「偉大な強いアメリカ」を創るために、欠かせないからである。
 なかでも、こだわっているのが自動車産業だ。自動車産業は裾野が広く、影響は多くの産業に及ぶ。しかも有事の際、自動車工場はたちどころに軍事工場に早変わりする。第2次世界大戦時、米国の多くの自動車工場で戦闘機や戦車が作られ、米国の勝利に多大な貢献をしたことは米国人なら常識であり誇りである。米国人は、ことさら自動車産業には敏感なのである。
 親しい経済人を囲んだスモールミーティングに誘われ、トヨタ自動車の要職を務め、一線を退いた方に話を聞いたことがある。氏が「トヨタは世界一になってはいけない」と強調したことが強く記憶に残っている。アメリカを知る氏は、アメリカの本質・怖さが良く分かっていたと思う。氏の影響力が弱まり、米GMを抜き、トヨタが世界一になった途端にプリウスの急加速問題から全米に発展した大規模リコール問題である。明らかに難癖、言いがかりであったが、泣く子と地頭には勝てない。ほとんどが運転ミスでありながら、トヨタは結局12億ドル(約1400億円)の和解金を支払う羽目になった。今回のトランプ大統領のトヨタに対する工場建設要望に対しても、十分な注意としたたかな対応が必要だろう。
(3月22日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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