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トランプ米大統領が構築する世界

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公開日付:2017.03.15

 

トランプ大統領の迅速な有言実行に世界が衝撃を受ける

 1月20日に就任したトランプ米大統領は、就任するや否や、米国のみならず、世界を揺るがす政策を矢継ぎ早に発表している。大統領に就任した20日には、医療保険制度改革(オバマケア)見直しと、新たな規制導入の凍結に関する大統領令に署名した。
 23日には、日本に大きく関係する環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱や、連邦政府職員の採用凍結、妊娠中絶を支援する国際団体への助成金停止について、大統領令に署名した。24日には石油パイプラインの建設促進について、25日にはメキシコ国境への壁の建設など不法移民に関する規制強化についての大統領令に署名した。
 27日にトランプ大統領が署名した、難民や「テロ懸念国」の市民の入国を制限する大統領令に、世界的な混乱や波紋が広がっていることは周知のとおりである。
 さらに、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しや、中国、ロシア、中東などに関するトランプ大統領の言動・政策が世界的な関心を集めている。
 トランプ大統領が就任後、矢継ぎ早に大統領令に署名していることは、大統領選挙期間中に宣言・公約していたことである。つまり、トランプ大統領の言動・政策に世界が驚き慌てふためいているとの印象があるが、より正確に言えば、トランプ大統領の迅速な有言実行に、世界が衝撃を受けているということである。

オバマ大統領が米国を壊し没落させたことがトランプ大統領誕生の前触れ

 トランプ大統領は何をしようとしているのだろうか。それを考えるために、トランプ大統領が誕生する前の米国はどういう状況にあったのか、トランプ大統領がなぜ誕生したのか、ということについて考える必要があろう。
 トランプ大統領の前任であるオバマ大統領は、シリア情勢が混迷した2013年9月、「米国は世界の警察官ではない」と発言し、世界を驚かせた。「米国の国益に基づき、アサド政権による化学兵器使用の責任を取らせる」と軍事介入の方針を堅持していた米国は、結局、軍事介入を見送った。オバマ大統領の決断により、世界最大の軍事力が、いわば飾り物になったのである。
 内政面では、「チェンジ(変革)」を掲げて当選したオバマ大統領は、貧困層を保護したものの、裕福な国民や中産階級には重い税金を課した。税金が取りやすいからだ。結果は、米国中産階級の崩壊だった。このような白人を中心とする中産階級の不満がトランプ大統領当選の大きな原動力になったと考えられる。
 国際ジャーナリスト・落合信彦氏が、「オバマは8年かけてアメリカを壊してしまった」「オバマはアメリカを壊すためだけに大統領になったとしか思えない」と、著書『そしてアメリカは消える』(2916年9月刊)で辛辣に指摘したように、オバマ大統領は米国を壊し、没落させるために大統領に選ばれたのだろう。

トランプ大統領は、第2次世界大戦後の国際秩序・体制の「破壊と創造」を行う

 では改めて、トランプ大統領は何をしようとしているのだろうか。メディアの報道には、米国第一への政策転換、オバマ遺産の撤廃、小さな政府の推進、保守的政策への回帰、保護主義の台頭、多国間の貿易協定から2国間の貿易協定へ、などとある。
 オバマ前大統領の最大の遺産とも言えるオバマケアを就任後、直ちに見直すことにした大統領令への署名や、オバマ政権が強化した金融規制の抜本見直しについての大統領令への署名は、まさにオバマ遺産の撤廃である。TPP離脱やNAFTA見直しは米国第一への政策転換、保護主義の台頭、多国間の貿易協定から2国間の貿易協定への動きと言える。
 ただ、局所的に現象面を見れば、そのとおりなのだが、米国を壊し没落させたオバマ大統領に対し、トランプ大統領の役割は何だろうか。
 NAFTAの見直し・再交渉、イスラエル・エルサレムへの米大使館移転の検討、ロシアへの接近、トランプ政権の中国に対する厳しい布陣、さらには国連や国際機関への拠出金削減・温暖化対策の国際的枠組み「パリ条約」からの離脱の動きなど、これまでの公約や言動から考えると、トランプ大統領は、第2次世界大戦後、米国主導で構築された世界の経済・金融・貿易・安全保障体制など、世界の現体制・国際秩序の破壊と新たな体制・秩序の構築を目指していると思う。
 つまり、破壊と創造である。トランプ大統領が破壊と創造を行う前に、オバマ大統領が米国を壊す必要があったと考えている。トランプ大統領が行う第2次世界大戦後の世界の体制・国際秩序の破壊と創造に、1月27日のトランプ大統領と英国メイ首相との初会談で「特別な関係」が復活した英国と、時にはロシアが協力していくことになるのだろう。
 トランプ大統領は、就任演説で宣言したように「この先何年もの米国と世界の道筋を決める」のである。それにより、大統領選挙期間中からの公約である「Make America Great Again(偉大な米国の復活)」を目指すことになろう。

トランプ大統領の最大の役割は米中冷戦の構築か

 トランプ大統領が今後構築する新しい世界の中で、世界的な影響が最も大きいと考えられるのは米中冷戦の構築だろう。米中冷戦構築への予兆は、トランプ大統領の言動やトランプ政権中枢の布陣、さらには米国内で大きな力を持つ親中派の最近の言動などに如実に表れている。
 米国は第2次世界大戦後、旧ソビエト連邦(ソ連)を相手に米ソ冷戦を戦ってきた。もっと広く言えば、東西冷戦である。東西冷戦とは、1945年から1989年まで44年間続いた資本主義・自由主義陣営(西側)と共産主義・社会主義陣営(東側)の対立である。東西とは、欧州の東側が共産主義陣営、西側が資本主義陣営であったことを指し、軍事力で戦う戦争にはならなかったので冷戦(Cold War)という。
 この東西冷戦の盟主は、西側が米国、東側がソ連だったが、この米ソ冷戦の勝利を米国にもたらしたのがレーガン大統領だ。「強いアメリカ」を掲げ、1981年に米大統領に就任したレーガン大統領は、大幅減税と積極財政に代表される、いわゆるレーガノミクス(レーガン大統領の経済政策)により米経済の回復・立て直しを推進した。米ソ冷戦には軍備拡張で対処し、冷戦に勝利した。
 「Make America Great Again(偉大な米国の復活)」を掲げ、大幅減税・積極財政・インフラ投資・軍事力増強などを謳い、米大統領選に勝利したトランプ氏は、「強いアメリカ」を掲げ1981年に米大統領に就任したレーガン大統領を彷彿とさせる。トランプ大統領は、米ソ冷戦を戦い、米ソ冷戦に勝利したレーガン大統領にあやかろうとしているように見える。

米中冷戦を構築するために、中国と親密なドイツを攻撃する

 米ソ冷戦時代、米国とソ連は世界の2大強国であった。強大なソ連と戦うために、米国はソ連に隣接する欧州と日本を味方に付け、共産主義・社会主義陣営の有力な一員だった中国とは1972年に友好関係を結んだ。いわば、着々と外堀を埋め、本丸のソ連と戦ったのである。
 米中冷戦を構築するに当たっても、同じような戦略をとっていると思う。中国はいまや経済面でも米国に次ぐ世界2位の座にある。そうした強大な中国をもたらしたのは、米国と日本の援助にほかならないが、もうひとつ見逃せないのが中国と欧州の関係である。
 10年ほど前、北京に行ったとき、驚いたことがある。市内を走る自動車の圧倒的多数が欧州車であるということだ。当時、日本車は1割程度に過ぎず、7~8割が欧州車で、特にフォルクスワーゲン(VW)が多かった印象がある。
 今般のVWの排ガス不正問題でも、販売台数が減少してもおかしくないのに、VWの2016年の自動車販売は前年比4%増の1,031万台になった。全体の4割近くを占める中国で小型車減税の追い風を受けたことが大きく寄与している。まるで、窮地に陥ったVWに中国が救いの手を伸ばしたかのようである。この結果、トヨタ自動車を上回り、2016年の自動車の世界販売でVWは初めての世界首位に躍り出た。
 このように、中国とドイツの関係は密接である。このことは、ドイツ・メルケル首相が頻繁に中国を訪問していることでもわかる。
 こうしたドイツに対し、米環境保護局(EPA)は2015年9月、VWが排ガス規制を逃れるソフトウェアを搭載していたとして、調査に着手した。この結果、2016年6月、EPAは、VWが最大約147億ドル(約1兆6,500億円)を支払うことで和解したと発表した。自動車メーカーが不正問題対応で、米国で支払う金額としては過去最大になるという。
 VWの倒産を防ぐため、メルケル首相の指示で約1兆円をVWに融資したドイツの最大手銀行ドイツ銀行に対しても、2016年9月、米司法省は、過去の米国内での住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売問題を巡り、140億ドル(約1兆6,000億円)の和解金を支払うよう要求した。このドイツ銀行の不正販売問題に対し、2016年12月、米司法省はドイツ銀行が72億ドル(8,100億円)の和解金を支払うことで合意したと発表した。

地政学的に重要な、英国との特別な関係の復活、日本の重視

 ドイツの次の標的は英国である。英国は、中国主導で2015年末に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に率先参加した。英国の参加表明を契機に、ドイツ、フランス、イタリアのG7諸国が相次いでAIIBへの参加を決めた。
 AIIBの設立は、国際通貨基金(IMF)など米国主導で構築された第2次世界大戦後の国際金融秩序に挑戦する動きと言える。にもかかわらず、米国と特別な関係にあるはずの英国が率先参加したのである。米国は、重大な背信行為と認識したに違いない。
 この英国の米国に対する裏切りが、パナマ文書の流出につながったと思う。英国はタックスヘイブンを発明し、タックスヘイブンの多くは英国の旧植民地にある。パナマ文書の流出で最も打撃を受けるのは英国なのである。
 そして2016年6月23日、英国の国民投票の結果、英国は欧州連合(EU)からの離脱を選択した。これにより、EU残留を望んでいたキャメロン首相、さらに、中国が設立したAIIBへの率先参加を主導した腹心のオズボーン蔵相が失脚した。
 1月20日に米大統領に就任したトランプ米大統領は、就任後に会談する初めての外国首脳として、英国のメイ首相を選んだ。1月27日の米英首脳会談で、両首脳は「米英の特別な関係」の強化で一致したと報道された。
 トランプ大統領の、英国に続く2国目の首脳会談は、2月10日の日米首脳会談である。安倍首相は、大統領専用機エアフォース・ワンに乗り、トランプ大統領のフロリダの別荘に行き、手厚いもてなしを受けた。翌日はトランプ大統領とゴルフだ。かつてない異例の厚遇である。米国は地政学的に、大西洋での英国、太平洋での日本を重視する構えだと考えられる。

 ロシアへの接近、中国に対するトランプ政権の布陣など米中冷戦の布石が相次ぐ

 米ソ冷戦で、米国はソ連と中国を離反させ、ソ連と戦ったが、今後、米中冷戦を戦うためには、中国とロシアを離反させる必要がある。そこに、ロシアのプーチン大統領を尊敬しているトランプ大統領の登場である。ロシアと接近するため、混迷するシリアをロシアに任せる方針だ。
 トランプ政権の中枢として、国務長官に米石油メジャー最大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)だったレックス・ティラーソン氏が就任した。ビジネスを通じてロシアと深いつながりがあり、ロシアのプーチン大統領から「ロシア友好勲章」を授与されている。
 国防長官には、NATO最高司令官、米中央軍司令官等を歴任し、アフガニスタンやイラク戦争で実戦を指揮したジェームズ・マティス氏が就任した。膨大な読書量や米軍随一の戦略家として知られる。1月12日に行われた上院軍事委員会の承認公聴会では、アジア重視の姿勢を示した。
 このようなトランプ政権の布陣から見ても、米中冷戦の意図は明らかだと思うが、こうした前兆は、米国に大きな基盤を持つ親中派の姿勢変化にも現れている。
 親中の大物である米国防総省顧問マイケル・ピルズベリー氏は、著書『China 20149』(2015年9月刊)で「1972年にニクソン大統領が訪中して以来、中国は友好国になると信じ、一貫して支援してきたが、それは誤りだった」と、内幕を暴露している。
 ただ、親中派の巨頭として著名なキッシンジャー元国務長官をはじめ、親中派は米国中枢に隠然たる力を築いてきた。親中派の姿勢変化は見えているが、すぐさま弱体化することは考えにくい。日米首脳会談直前に行われた米中電話会議や、ロシアと親密なフリン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の辞任にみられるように、水面下での権力争いが熾烈である。だが、一旦回りだした時の流れは止められないと考えている。
 (2月22日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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